リバウンド9

楽しい(?)旅行の様子。

「おかしいと思ったんだよねえ。ちょっと動きやすい服持ってこいとか、登山靴があったら持ってこいとか、ないなら運動靴でいいとか、変に指定が入るなあとは思ったんですよ。でもそれも、小山田さん意外な一面とかそういうの求めてるのかなーって思って装備一式持って来ちゃった私も大概馬鹿なんですけどねー」
 ぐちぐち言うセンリに、誠治はため息をつく。それだけ文句を言う割に、先程から誠治の先を歩いているのはセンリなのだ。服装も誠治が指定をしたからか、かなり本格的な装備を持ってきたらしい。登山靴を持っていたのは驚きだ。
「今回のために買ったのか」
 そうだとしたら悪いことをしたと思っていると、彼女はいやと首を横に振る。
「元々持ってたもの」
「持ってた?」
「仕事の関係でね。一式持たされて捨てるの忘れてたんだけど、捨てなくて逆に正解だった」
「どんな仕事だ」
 すると、センリはこちらをくるりと向き、首を傾げる。
「知りたい?」
 登山道具一式を持たせるような仕事などあまり聞いたことがないという意味合いで言ったのだが、どうやらセンリは仕事の詳細を訊かれたと思ったらしい。訂正しようかとも思ったが、そういえば昨日こそ彼女の職業に疑問を持ったことを思い出し、ついでに訊ねてみるかと思い直す。
「少し興味はあるな」
「うーん、そうかあ」
 どうも話しづらそうな様子を見るに、わけありの仕事なのだろうか。
「でもなあ。うーん」
「話しづらいのか」
「付き合ってる人の要望は最大限聞いてあげたい方なんだけど、仕事のこととなるとなあ」
「だめか」
「……そうだね、一応守秘義務のある仕事だから。ごめんね」
「そうか」
「うん」
 すまなさそうにしているセンリに気にするなと肩を竦め、誠治はセンリの先を行く。
「目的地までもう少しだから、行くぞ」
「はーい。っていうか目的地ってどこ?」
「行けばわかる」
 それからしばらく、黙々と山道を登る。時々振り返ると、センリはしっかりついてきていた。なかなかガッツのある女だと思いつつ、先を進む。
 歩を進める内に開けた場所に出た。
「着いたぞ」
 声をかけると、センリは顔を上げる。そして目を丸くするのを見て、誠治は安堵した。
 センリの視線の先には、農村の一軒家のようなものがあり、山道に向けて開かれている門の傍には『おそば』と書かれたのぼりが立てられている。
「蕎麦屋?」
「ああ。うまいぞ」
「これでまずかったら大問題では。え、もしかしてこの蕎麦屋に行くために、山登り?」
「あと、山頂付近に昔この辺りを治めていた領主の隠し湯とかあるが」
「お風呂は帰ってからにしよう」
「そうか」
 では隠し湯は行かなくていいかと思っていると、センリがため息をついているのが見えた。
「なんだ、蕎麦は嫌いか?」
「そうじゃなくて。あー、任せっぱなしもなんだし、あとで予定確認させて。言える範囲でいいから」
「言える範囲」
「小山田さんがサプライズにしておきたいところは伏せてていいから。よし、ひとまず蕎麦を食べよう!」
「あ、ああ」
 なぜか張り切った様子のセンリについていき、誠治も蕎麦屋に入った。

 その後蕎麦屋で予定を共有し、その上でセンリをあちこちに連れて行った。彼女は各所で楽しそうにしていたし、誠治も久々に楽しい旅行だと思えた。
 釜飯が名物の店で料理を待ちながらこの三日間のことをぼんやりと振り返っていると、ふとセンリが口を開く。
「小山田さん、割と大胆な予定組むんだねえ」
「そうか?」
「体力がない人だと、ちょっときついと思う」
「……お前はどうなんだ」
「私は楽しめたよ。体力ある方だし。ただ、普通の女の子とかはついていけないかなあ」
「そうか」
 それなら、今後もこの女にはこれくらいでいいのかと思っていると、釜飯が届く。誠治が頼んだものと、センリが頼んだものは量に大差はない。
「大丈夫なのか」
 一応声をかけると、彼女は首を傾げる。
「何が?」
「多くないか?」
「釜飯ってこんなもんでしょ」
「さっき土産物の試食を手あたり次第してただろ」
「あー、そのこと? あれくらいなら、まあ誤差だし」
「見てるだけで腹いっぱいになりそうな量に思えたが」
「……次来ることもないだろうから食べれるなら食べとかないとって感じで片っ端からいった気はする、かも」
「来たいなら、また連れてきてやるが」
 すると、彼女は目を丸くし、次いで嬉しそうに目を細める。
「次約束してくれる?」
「お前が来たいならな」
「ありがとう。じゃあ、そうだな。二年後も付き合いがあったら、また来よう」
「来年じゃなくていいのか」
 こういう約束は来年だろうと思って訊ねると、センリは頷く。
「二年後がいいな」
「……そうか。なら、二年後な」

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