地元に帰ったら〇〇〇〇〇たんだが!?

CoC「辜月のN」の感想ふせったーリンクまとめと後日談。
後日談はシナリオの一ヶ月後の話のつもりだけど、場合によっては消えるかもしれない世界線の話。

帰ったら墓に入ってたんだが!?
 光琉と一緒に京都から脱出し、早一ヶ月。
 京都に続く道を封鎖していた警官らに保護され、その後入院をし、事情聴取やらを受け、カウンセリングを受けと色々あったが、ひとまず退院でき、解放された。光琉は親戚を頼るとのことだったのでそこで一度別れることになった。一方、要は実家に戻るという話も出たが、それだけは死んでも嫌だと拒絶し、また実家への連絡もやめてくれと強く頼んだのだが、捜索願か死亡届を出されている可能性もあるため、いずれにせよ一度本籍地に戻り、手続きをした方がよいと説得されてしまった。
 そういった経緯で、要は体感では二年ぶり、実際は約四年ぶりに地元に帰ってきてしまった。
 地元唯一の駅を出て、バス停に向かう。駅付近の壁やシャッターの落書き、区切りとなる白線が消えてしまっている駐車スペース、いつから置かれているかわからない錆びた自転車など、相変わらずの様子だ。
 バスに乗って市役所に向かう。道路のあちこちに陥没している箇所があるため、文字通りバスに揺られつつ景色を見る。知らない店や家が建っていたりはするが、概ね見知った風景であり、時折見かけるガラの悪い学生の姿を見れば、相変わらずだなと笑いたくなってしまう。
 市役所最寄りのバス停を降り、バス停の隣にある坂道を登り、市役所を目指す。それなりに待っている市民がいたが、幸いなことにその中に要の知り合いはいなかった。
 保護されている間に用意された書類を窓口で見せると、既に連絡でもあったのか、あっさりと手続きは終わった。銀行などはまた別と言われたが、要としては戸籍関連が一番のネックだったので問題はない。今後必要になりそうな書類も発行してもらったところで、家族への連絡はと聞かれたが、仲が悪いからと言えば納得してくれた。
「唐橋様は成人なので、特に問題はないでしょう。では、ご連絡は当人からということで」
「はい、ありがとうございます」

 市役所でやるべき手続きを終え、さて隣町のホテルにでも泊まるかと思っていると、突如肩を掴まれた。慌てて振り返ると、中学時代の友人、笹井幹二が青ざめた顔で立っていた。
「カンちゃん?」
「ヨ、ヨウちゃんだよな!?」
 彼と他の数人しか使わないあだ名に、要はやや呆然としながらも頷いた。すると、幹二はボロボロと泣き出した。
「い、生きてたぁ! お、おまえ、京都の大学行くって言ってて、そしたら、京都あんなことなって、行方不明って聞いて、でももう死んでるやろって話になって、葬式までやって。でも死んだなんて信じられねえって、みんなで話してて」
 泣きながらそんなことをわあわあと話す幹二の言葉を飲み込みつつも、要はある点で声を上げる。
「葬式!? やっぱ俺死んだことになってるんか」
「墓もある。墓参りする?」
「……そうだな。一応しとくか」
「ついでだから、他の奴らも呼んでいい?」
 幹二が呼びたいと挙げた名前は、いずれも中学時代の友人だ。
「まあ、そこくらいならいっか」
「じゃあ呼び出しとく」
「ちょっと驚かせてやりたいから、俺がいることは伏せてもらってええ? あ、でも、墓が集合場所だと不自然か?」
 すると、幹二は泣きながらもニヤリと笑う。
「ええよぉ。集合場所も大丈夫。俺らの最近の集合場所、ヨウちゃんの墓やもん」
「なんて?」
「ヨウちゃんの墓の前で、今日はどこどこ行くんやいいやろって話をしてから行くのが定番になってて」
「変な定番作んな」

 その後幹二の呼びかけで集まった面々は、要の姿を見るなり飛びつき、泣いたり騒いだりし、結果墓地の管理をしている住職がやってきて大層怒られたが、一通り叱った後に要のことを認識すると、住職は腰を抜かして驚いていた。住職も要は死んだものと認識していたらしい。幸い、住職も要とその両親の不仲を知っているため、黙っていてくれると約束してくれた。
 住職に謝った後に、幹二がよく使う居酒屋に移動してそこで飲み会となった。それぞれの近況を聞いて、既に就職しているので仕事の愚痴も聞きつつ、楽しく過ごせた。要がなぜ生き残ったかについては、記憶がないで押し通した。
 二年前の大学の文化祭までは記憶があるが、ふと目が覚めたら京都は荒野になっていて、這々の体で京都から脱出した。脱出したら二年経っていて驚いたと。その程度の説明に留めた。
 なんとなく、彼らにあんな、自らの常識が打ち砕かれるような超常現象なんて知らないでいてほしいと思ったのだ。

 飲み会の後、実家に帰らないなら泊まるところもないだろうと、幹二が家に誘ってくれたので、甘えることにした。
 幹二も既に実家を出ていて、今は三つ向こうの街で一人暮らしをしているという。予想通りのそれなりに狭い場所ではあったが、片付けられているので二人でごろ寝するくらいはできた。
「わりぃな、カンちゃん」
「気にすんないって。俺とヨウちゃんの仲じゃん。それにしても、実家帰らんなら、これからどげするん? 今、家もないんやろ」
「まあな。ひとまず保証人いらんとこ探してからかなあ。一応お役所が用意してくれるやつもあるんやけど、不便なとこが多くて」
「ほうほう。で、家見つけたらそん後は? また大学入るん?」
「大学は流石にもう通えんよ。だから、仕事探すことになるなあ。履歴書に大学消滅って書いてええと思う?」
「それで騒がれてもええならありなんやない?」
「高卒ってことにしとこう」
「……なあヨウちゃん。もし働くあてがないなら、俺が仕事紹介しようか?」
 幹二の言葉に、要は内心警戒する。
「お前の悪い仲間の手伝いやないなら、話聞くけど」
 先手を打つと、幹二は残念と呟く。やはりあちら方面の話のようだ。
「じゃあ、今のは聞かんかったことにして。でも、本当に困ったら、連絡しぃ」
「そんな日がこんことを祈っちょくわ。ひとまず、コンビニバイトとか探すし。一緒に生還した友人に顔向けできん仕事はなあ」
「そっか。まだ生きちょんあっちのお友達おるなら、ヨウちゃんはカタギの方がいっか」
「そもそも俺には務まりそうにもないやろ」
「仕事は山ほどあるから、探せばヨウちゃんでもできる仕事あるって。事務方とかどう?」
「だからやらんって言うちょんやろー」

「ってことがあったからさあ、いやあ、危なかったわ。あと一週間コンビニのバイトが見つからんかったら、光琉くんに二度と電話できんとこやった」
 近況報告がてら光琉にそう言うと、電話の向こうでため息が聞こえた気がした。
『要、そんな悪い友達がおるん?』
「地元、治安悪いからさあ。割とヤのつく方と繋がりがある人とか、そこに繋がってるヤンキーとかおるわけ」
 幹二は繋がっているヤンキーの方だったのだが、あの後聞いたらどうもずっぷりそちらの方面に進んでしまったらしいのだ。風呂上がりに「見てー、最近彫ってもらった龍!」と背中を見せられた時はどんな顔をすればいいかわからなかったものだ。
『治安悪いって、そういう方向の?』
「言うて本拠地はちょっと離れてるから、そこまで悪くはないよ。たまーに怖いお兄さん歩いてるけど、近付かなきゃいいだけだし。向こうさんも大人しいもんよ」
『そうなん』
 相槌を打ちつつも、やや光琉が引いてる気はする。刺激が強過ぎたかと反省しつつ、話題を変える。
「光琉くんはどうなん? そっちの生活慣れた?」
 引き続き話しつつ、この話は二度としないでおこうと決めた要であった。

    お名前※通りすがりのままでも送れます

    感想

    簡易感想チェック

    ※↓のボタンを押すと、作品名・サイト名・URLがコピーされます。ツイッター以外で作品を紹介する際にご活用ください。