竜に借りを作るものではない

皇帝陛下、借金の取り立てに行くの巻。

 在位一三◯年。
 書状を確認していたリーナは、ふとあることに気付く。
「あれ、ジッテの借金ってまだ返してもらってないか?」
「ジッテの借金?」
 傍で仕事をしていた儀礼長官が訝し気にこちらを見る。
「金を貸したのですか」
「ああ。何年前だ? えーと、確か、これが他国との金銭周りの書類だから」
 引き出しを開き、そこにあった書類をぺらぺらとめくる。
「確か、セイリュウとクリスに援助をした時期だったから、この辺だと思うが」
「その二国に支援というと、アバラ川の大氾濫があった時期ですな」
「そうそう、あの時期。流域にある国は軒並みダメージくらったとかで、援助してほしいって言った国と、金を貸してほしいって国があったんだが……。ああこれだ」
 見つけた書類を机に広げる。
「ジッテからの申し込みがあった時期は、アバラ川流域の調査もしてた頃ですね」
「儀礼長官にはあとで伝えようと思ってたんだろうなあ」
 リーナが指すところに、小さく「儀礼長官への連絡忘れぬこと」とメモ書きがされている。
「お互い忙しくて確認を忘れて今日に至るという感じだな」
「このままでしたら永遠に忘れていましたね。何か他の書類があったのですか?」
 儀礼長官が問うと、リーナは先程読んでいた書類を彼に見せた。
「ジッテの王が替わったという報せだ。それを見て、そういえばと思い出した」
「なるほど」
「代替わりの祝いついでに、借金返済のめどが立つかどうかは聞いてくる。誰か計算が得意な奴に金利計算させておいてくれ」
「かしこまりました。いつ頃に向かう予定で?」
「来週が比較的空いてるから、その頃だな。丁度いいことに、その時に王が即位して初の夜会があるらしいから、そこに乗り込もう」
「招待状は用意させますか」
「あった方がいいだろうが、まあ無理だろ」
「大使館枠がありますよ」
「……大使館なんて置いてたか?」
「いえ、他国の大使館枠を借りるという話です。ジッテと懇意にしている国はいくらかあったでしょう。それこそ、セイリュウやクリスの大使館はあるはずです」
「ああなるほど。じゃあそっちに枠が借りれるか聞いてみてくれ」
「衣装はどうなさいますか」
「実家にある簡易礼装を使うから用意しなくていいと伝えてくれ。あと、もしパートナーが必要な類なら、大使館側で竜に興味のあるお嬢さんを用意してくれとも」
「また誤解されますよ」
「……竜に興味のある人間でいいや。性別は問わない。ただし俺は人間の言うところの男装だとは伝えてくれ」
「かしこまりました」

 そうして一週間後。リーナは黒い袍をまとってジッテの夜会に来ていた。パートナーは丁度ジッテに留学に来ていたというクリス国の伯爵家の娘で、夜会の間はルシールと呼ぶよう言われていた。ルシールは物おじせず好奇心旺盛なようで、リーナに会うなりカリバーンに関する質問をばんばん投げかけ、積極的に交流をしようという気概を見せてきた。
 夜会までにそこそこ仲良くなったルシールと共に、リーナは夜会に臨んだわけだが、そこで思わぬことが起こった。
「ダニエル・フィルソダー、貴殿の婚約者を賭けて決闘を申し込ませてもらう!」
「ふん、若造が。返り討ちにしてくれる」
 そんな声とともに、夜会会場で決闘が始まってしまったのだ。
「ルシール嬢、これは無知ゆえの質問なんだが、夜会ではこういう催しが流行っているのか?」
「少なくとも、わたくしの国では流行っておりませんね。ただ、ジッテではこうした貴族の集まりで決闘を行うのが流行ってはいるようです」
「他国からの来賓にとっては割とどうでもいいやつだな」
「ええ。わざわざ内輪もめを見せて、誘っているのかしらと我らが王も困惑しております」
「若い貴族の間だけで流行ってるわけじゃないんだな」
「ご高齢の方はあまりやらないようですよ」
 つまり大部分はやっているのだろう。
「大々的に内紛やるよりは金がかからんと思ってるのかな」
「まあ安上がりではありますね。国としての信頼がなくなるという点では、高くつくとは思いますが」
「割と閉鎖的な国だから、他国からの信用信頼はいらないんだろ」
「そうかもしれませんね」
「とはいえ、本当にどうでもいいな。横やりを入れていいと思うか?」
「この世で陛下の行いを咎める方がいらっしゃるのですか?」
「これでも不調法で傲慢な皇帝にはならないよう努力してるんだ」
「他国からの来賓もある中、このような余興を見せる国の方が不調法ですから、気になさる必要はないかと」
「そうか」
 ルシールの言葉ももっともだと思い、リーナは今まさに切り結んでいる二人に水を浴びせる。
「だ、誰だ! 神聖な決闘をけがすようなことを」
「決闘が尊いものだと思っているのはお前達だけだ。俺としては至極どうでもいい。というか、わざわざ他国の者がいる中で内輪もめを堂々と見せてくれるとは、ここは面白い国だな」
 文句を言いながら前に出ると、多くの者は誰だといった表情をし、一部の者だけが青ざめている。青ざめているのはリーナのことを知っている者だろうか。
「決闘は私が推奨していることだ。どこからの者か知らぬが、口出しをしないでいただこう」
 そう言ったのは、最初に紹介があったジッテの新国王だ。波打つ金髪と輝く碧眼は豊穣の象徴と紹介されていたが、リーナとしてはよくいる偉そうに振る舞う人間だなといった印象しか持たなかったし、それが正しかったのだなと思うほど、傲慢が顔に出ている。
「ほう。ジッテの国王は他国の者にそこまで偉そうな口を利くのか」
「他国の者など、この場にいるのは所詮一貴族。私と並ぶ者などここにはいない。して、そなたは誰だ。後程大使館宛に無作法を言いつけるゆえ、名乗るがよい」
 ジッテ国王の言葉に青ざめていた者達がざわつく。
「名乗っていいのか?」
「名乗れと言っているのだ」
「そうか。では名乗ろう。リーナ・キソー・カリバーン。旗竜帝国カリバーンの皇帝をやっている」
 途端、ジッテ国王の顔色が変わる。
「な、カ、カリバーンの皇帝? そ、そんな馬鹿な」
「以前この国に来たのは二十五年前だから、まあお前は覚えていないか」
 そう言いつつ、周囲にいる者達の顔を見る。その中で、奥の方にいる老翁がかなり怯えている上、リーナに対して近付かないでくれと思っているようなので、くいと指を振り、その老翁を引き寄せた。
「ひっ」
「名は知らないが、貴殿は覚えていてくれているようだな」
「え、あっ」
 恐怖からか言葉がなかなか出ない老翁をよそに、周囲を見る。「元宰相の」という言葉が読み取れることから、多分この男は二十五年前は宰相の地位にいたのだろう。
「ロンメル侯爵、この者の言葉は真実か?」
「は、はい。三十年ほど前に、確かにこの方が」
「ロンメル侯爵とやら、その時俺が何をしに来たか、覚えているか?」
「勿論! アバラ川大水害の折に、我が国に支援をしていただけるとおっしゃって、それで……」
 話しながら段々老翁の顔色が悪くなっていく。当時のことを思い出してきたのだろう。
「支援をしようと言ったんだが、トカゲもどき共に感謝しながら生きるのは御免だ、金を貸してくれるだけでいいと、先王は言っていたな」
 当時の経緯を話すと、周囲がざわりと声をあげる。
「そ、その通りでございます」
「俺の記憶違いでないようでよかった。面と向かってそう言うものだから、威勢がいいものだと思って、ちょっと脅した上で金を貸したわけだ。だが、トカゲもどき相手には踏み倒していいと思っているのか、未だに返済がない。そこへ代替わりの報せがあったから、こうして返済の催促に来たわけだが、存外面白いものが見れてしまった。とはいえ、借金は借金。ジッテ国王、返済の意思はあるか?」
 ジッテ国王を見ると、彼は不敵に笑う。
「ふん。そんなもの。父の借金はあくまで父の借金。既に父は死んだのだから、私には関係ない」
 想定通りの回答そのままが出てきて、リーナは笑いたくなったが、そこは我慢する。その代わりに、散々周囲に邪悪だと言われた方の笑顔を浮かべる。
「ではジッテからカリバーンへの宣戦布告と捉え、近々ここを攻め込もう」
「は? たかだか借金を返さないくらいで宣戦布告とは、これだからトカゲもどきは」
 ジッテ国王がそう返すと、それを聞いた数人が慌てた様子で会場を後にするのが見えた。賢い判断だと思いながら、リーナは続ける。
「ジッテの国民は竜には不慣れだろうから、一応説明してやろう。竜とは基本的に己より弱き者に与えることを厭わない。竜は強き者としてより弱き者を庇護する生き物だ。だからこそ、支援という形はいくらでも惜しみなく与える。しかし、ジッテは借りるという手を選んだ。竜にとって貸し借りとは同位のものとの間でしか発生しない。よってジッテは、カリバーンに対して同位の国であると宣言したも同然だ。そして、竜の性質としてもう一つ、貸し借りをおこなった場合、その返済を渋るというのは、相手と敵対関係になると宣言することにもなる。カリバーンはあくまでジッテ国へ金を貸した。個人名義ではなく。そして今、ジッテの国王はカリバーンへの借金を返済しないと宣言した。これを俺は宣戦布告と受け取る」
 リーナの言葉に周囲がざわつくが、魔力で圧をかけて黙らせた。そして、これこそが重要だといった体で言葉を続ける。
「最後に。我々竜は、トカゲもどき蛇もどきと呼ばれることが大嫌いだ。どれくらい嫌いかというと、そう呼ばれた場合相手を殺してしまっても仕方ないと法が定めているくらいには」
 そう言って、ジッテ国王に向けて火球を放ち、国王の左右の壁に風穴を開けてやった。それでジッテ国王の顔が青ざめ、周囲をおろおろと見るが、周囲の者もまた恐れているようだった。
「これは警告だ。そうだな、これから一ヶ月以内に返済の意思を見せない場合、次は城が丸ごと燃えると思ってくれ」
「そ、そんなこと、我らの神がきっと許さない!」
「竜と神は昔相争った仲だ。神が許さない、すなわち神がカリバーンと戦うと言ったのなら、その時はまた竜神戦争の再開だな。俺は一向に構わないぞ」
 そう言って、まだ何か言ってくるジッテ国王を無視して背中を向ける。追いかけられては困るので、ついでにあと一時間ほど座席から離れられないよう魔力で止めもした。小細工をしてルシールのところに戻ると、彼女はなぜかうっとりしているようだった。
「あー、ルシール嬢、俺は一旦帰ろうと思うが、どうする?」
「陛下がお帰りになるというなら、わたくしもご一緒しますわ。そうだ、この後大使館でおもてなしをさせていただいても?」
「……食事程度なら。腹が減ったし。ああ、人間の食べ物で大丈夫だぞ」
「はい、そちらは伺っております。では参りましょう」
「ああ」

 夜会があった後。
 リーナはクリス国大使館で過ごし、それを把握していた他国の者が秘密裏に訪れては開戦の意思はあるかと問いかけてきた。
「ジッテ側の動きにもよる」
「神造兵器が出ればその時は問答無用で開戦」
「メンツの都合上、開戦となったら少なくとも王都は焼いておかないといけない」
「国がなくなってしまえば流石に借金の取り立てはしない」
「ジッテの名前が残っている国なら借金の取り立て対象になる」
「ジッテに貸した額は利息を合わせて大体これくらい。金額は夜会の前に連絡済。見てないかもしれないが」
 といった内容を言葉尻を変えつつ伝えると、皆一様に悪い顔をして去って行った。
 それらの問い合わせが落ち着いたのは、夜会があった三日後だった。
「もしかして、俺が滅ぼすより先に他国が動こうとしてるのか?」
 茶を淹れているルシールにこぼすと、彼女は恐らくはと頷いた。
「陛下によって焦土にされる前に、あちこち領土を切り取っておこうという国がいくつか。それと、民衆に噂をばらまいて反乱を起こそうとしている国や商会がいくつか」
「あー、なるほどな。しかしそうなると、借金の返済は迫れなくなるな。催促ってことで、城の一部燃やしとくか?」
「陛下としては、何が何でも返してほしいのですか?」
「俺としてはどうでもいいんだが、うちの儀礼長官がなあ。儀礼と名前がつくだけあって、竜としてのメンツに煩いんだ」
「なるほど」
「だから、できればジッテにはきちんと返済をしてほしいんだが。まあ、国が滅んでしまうなら仕方ないからな。先に連絡しておくか」
「筆記具をお持ちしましょうか」
「大丈夫だ。竜には竜の通信方法がある」
 そう言いつつ、持ってきた手鏡の淵をくるりとなぞり、それで波立った鏡面に儀礼長官と記載する。すると、鏡面が更に波立ち、儀礼長官が映った。
「儀礼長官、ジッテの件なんだが」
『ああ、その件でしたか。首尾はいかほどで』
「新国王が返済を拒否したんで、警告した上で一ヶ月の猶予を与えたんだが、そのせいでジッテが他国から滅ぼされそうになってる」
 状況を簡潔に説明すると、鏡の向こうの儀礼長官が顔をしかめた。
『……そうでしたか。そうなると、返済は難しそうですな』
「また俺の作った赤字として計上しておいてくれ。いやー、これで俺を引きずり下ろす材料がまた一つ増えたな」
『嬉しそうですな、陛下』
「儀礼長官の気のせいだとも。さて、一応来月まではクリスの大使館で世話になるが、その前にジッテが滅びそうなら周辺国を観光してから帰ることになると思う」
『かしこまりました。観光に切り替える際にはまたご連絡を』
 頷いて、手鏡の淵を再度くるりとなぞり、鏡話を終える。顔をあげると、ルシールが興味深げにこちらを見ていた。
「陛下、今、その儀礼長官様とお話をなさっていたのですか? その鏡で?」
 その様子を見て、そういえば人間側ではこれは物珍しいのだったと思い出す。
「ああ。鏡話って呼ばれてるもので、術式を込めた鏡と、人間の言うところの素脈があれば使えるんだ。幸い、ここは素脈の末端が届いてるから、こうして使えるが」
「それは私達人間でも使えるのでしょうか」
 そう言われて、少し考える。使えるかどうかで言えば使えるだろう。鏡話は術式の理解と起動魔力が足りれば動くものだ。術式の理解は本人の努力が必要だが、起動魔力自体はささやかなもので充分だ。
 とはいえ、この詳細を話していいかというと微妙だ。鏡話の技術自体は秘匿ではないが、リーナの言葉一つで戦を始めようとしている人間達に教えていいかと考えると。
「今の人間にはまだ難しいだろうな」
「そうですか。残念です」
「ただこれの存在自体は秘匿じゃないから、竜にはこういったものがあるから、情報戦仕掛けるのはやめといた方がいいと伝えてくれても構わない」
「……そうですね。デマを流してもすぐに事実確認されてしまいそうですし」
「そういうことだ」

 一週間後。ジッテは国内のあちこちで内乱が起こり、周辺国からも攻め立てられ、それにあわせて難民も出始めと、いよいよ国の終わりが見えてきたといった調子だった。クリス大使館も三日後には閉鎖になるとのことで、リーナもそろそろ大使館から出るかと考えていた時だった。
 クリス大使館に先日夜会で証言をしてくれた老翁、ロンメルがやってきた。そこで彼の話を聞いて、リーナはため息をついた。
 簡単にまとめると、ジッテ国王はリーナの暗殺を企て、神造兵器を持ち出そうとしたらしい。この国の教会もリーナの暗殺を支持し、喜んで神造兵器を差し出したそうだ。しかし、その翌日に暗殺を支持した教会関係者の家屋が落雷にあい燃え落ち、神造兵器はジッテ国王が手にした途端粉々に砕けたという。そしてこれをリーナの暗殺に反対していた教会関係者が暴露し、その結果内乱が起こってしまったとのことだ。
「なるほどな。そこまで金を返したくないわけか」
「まことにお恥ずかしながら、正直、返済するほどの余力もないのです」
「ああ、さてはあの王、王太子時代から金遣いが荒かったタイプか」
 ロンメルは顔を赤くしながら頷く。
「なるほどな。それならいっそ借金のカタとして神造兵器をもらう手もあったが、粉々に砕けてしまったからなあ」
「失礼ながら、陛下のお力によるものではないのですよね」
「俺なら神造兵器が教会から持ち出された段階で王城を焼くぞ」
「失礼しました。であれば、教会側のどなたかか、或いは我らが信仰するヨミア様御自身の御業でしょう」
 そういえば、この国はそういう名前の神を信仰していたなと思い出す。こちらの物質に干渉できるとなるとそれなりに力のある神だろうが、それでも竜との戦争を避ける程度の良識はあるようだ。
「まあ俺の知るところではない、という話だ。それにしても、このままだとジッテは滅びそうだな」
「少なくとも、王は弑されるでしょう」
「そうか。既にあちこちに言いふらしているが、ジッテという国がなくなるなら借金の取り立てはしない。ただ、ジッテの名が残るなら引き続き取り立てはするつもりだ」
「はい、それは伺っています。しかしそれでも、国の名前は残ると思います」
 ロンメルの言葉にリーナはおやと思う。
「残すのか? 借金の取り立てが来るんだぞ。いっそ名前を捨てた方がいいんじゃないか?」
「陛下が思うより、この国の名を国民は愛しているのです」
「……そうか」
 そうなると借金の取り立てをまたしないといけないので、少し面倒だなとリーナはため息をつきたくなった。

 ロンメルを見送った後、リーナは一旦クリス国大使館を出て、周辺国を巡っていたが、やがてジッテ国王が王女によって殺されたという報せが入った。王を殺したジッテ国王の娘はそのまま国王となったが、それに反感を持った貴族らによる反乱が発生した。そんな情勢の中、リーナは新たなジッテ国王アグリッピナに城へ招かれた。そこで借金返済の意思はあるが、国が不安定のため今すぐは難しいと言われた。
「まあそうだろうな。それで、もう少し待ってほしいと? とはいえ、もう一世代分は待たされたわけなんだが」
「ええ、ええ。その上でまだ待ってほしいとは図々しいお願いだとはわかっているのです。ですので、こちらをひとまず質として預かっていただければと思いまして」
 そう言ってアグリッピナが差し出してきたのは、奇妙な短剣だった。刀身は人間の手ひらの半分にも満たない、五リン程度しかないが、柄の方は刀身の四倍もの長さだ。その柄にはボタンのついた覆いが付属していて、どうにも奇妙な形だ。そしてそこからわずかに感じる気配に、リーナは目を細める。
「神造兵器はどの国も一つしか持っていないはずだが」
「ええ、我が国所有のものは一つしかありません」
「この国のものは砕けたと聞いたが」
「教会所有のものは砕けましたね。陛下はご存知なかったでしょうが、ヨミア様を信仰するケケキァ教はジッテ建国後に他国から来たものなのです」
「他国からその神造兵器を持ってきたわけか」
「国が亡びるにあたり、当時の国王が教皇に預けたと歴史書にはありますが、そもそもケケキァ教発祥の国を滅ぼしたのは我々ジッテですから、真実かは微妙ですね」
 つまり、神造兵器欲しさにジッテが戦争をし、しかし国が持てる神造兵器は一つしかないため、ケケキァ教教会に持たせ、そしてそれを国有のものだと喧伝していた可能性が高いということなのだろう。多くの国が神造兵器は教会管理にしていたため、すっかり騙されてしまったわけだ。
「ちなみにそれはいつ頃の話だ?」
「ジッテがカリバーンにお金を借りるより前の話です」
 となると、竜神戦争が終結した直後の頃のことなのかもしれない。あの頃はまたいつ竜と戦争になるかもしれないと、人間の国同士が神造兵器を巡って争っていたと聞いたことがある。とはいえ、リーナとしては細かい時期を確認するつもりはない。
「そうか。いずれにせよ、これは正真正銘ジッテの神造兵器ってことだな」
「はい。ジッテの光剣と呼称されています。使い方はお伝えした方がよいですか?」
「必要ない。ひとまず、借金を返してもらうまではこれを預かっておこう。一応聞きたいが、これを預かっている間にジッテが滅んだ場合は、こちらがそのままもらい受けてもいいのか?」
「陛下の判断にお任せします」
「わかった。その時にまた判断しよう。俺としては、ジッテ国王に返してやりたいから、まあ、頑張れよ」
 すると、アグリッピナは感極まったように涙ぐみ、しかしすぐに不敵な笑みを浮かべる。
「ええ、いつか必ず」
「楽しみにしている」

 その後預かったジッテの光剣をカリバーンに持ち帰ったが、その二年後にはジッテから分割での借金の返済を提案されこれを承諾。その後更に五年後には無事利子も含めての返済が終わり、ジッテの光剣はジッテ国王アグリッピナに返されることとなった。

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