(2)上級探索者星屑ダスト

第二話、ダスト、メテオちゃんの顔をかぶって同業者とスタンピードに対応するの巻

 新しいタイプの炎上となって十日。星降メテオの中の人こと、探索者名星屑ダストは悩んでいた。
「どう考えても、まずいよなあ」
 そう言いながら、日課のエゴサの結果を見る。そこでは未だにメテオのやっていたことは実際できるのかという議論と、配信に映り込んだメテオの姿をした人物は何者かという憶測が並んでいる。
 後者のメテオの姿をした何者かについては、先日探索者組合が販売開始した携帯型モザイクフィルターのこともあって、配信対策グッズの開発テストをしていたのではという推測が出始めているので問題はない。あとは関係各所に話を通せば、後付けではあるがそういうことになる。
 問題は前者、メテオのやっていることが実際できるのかという議論だ。これについてはもうどうしようもない。ただ幸いなことに、圧倒的な魔力量を持つ探索者はそうそういないし、メテオがやっていることと同等のことができるような探索者はメテオ程度の知名度の探索者には興味がなく、SNSもやっていないことがほとんどなので、はっきりとできると証言する者はいない。さらに言えば、そもそもメテオを知っている者はかなり限定的なため、この話題がツィックスの注目ワードランキングに載ることもないため、このまま放置しておけばその内議論も落ち着くだろうとダストは思っている。
 しかし、このまま放置できない理由がダストにはあった。
「次の動画、どうすっかな。あの石柱映ってるから、絶対火種になるんだけど、ボツにはしたくないしなあ」
 いっそ撮り直して、今回のは別日に公開するかとも思うが、しかしいつ公開できるだろうかとも思う。
「……一旦お蔵入りにして、ほとぼりが冷めた頃に出すか」
 それしかあるまいとため息をつく。
「代わりに新しいの撮りに行かないとな。明日は休みのつもりだったけど、撮影行かないとだな」

 そうして再撮影に来たわけだが、最近は運がないなとダストはつくづく思う。ため息をつきつつ、今しがたスマートフォンに届いた通知を見る。
「モンスター郡の突発発生に新人研修がかち合ったかあ。ポイントが近いから、救助に行かないとか」
 ダストは仮にも上級探索者資格を持つので、こういった救助要請などにはそれなりに応じないといけないのだ。これで距離が遠ければ続報を待つことができるのだが、今回の発生個所は今まさにダストがいるダンジョンなので、流石に現地に向かわないと評価点を減らされてしまう。
 撮影用の幻覚を外して現地に向かうと、丁度引率の上級探索者が誘導をしているのが見えた。ドレッドヘアでゴーグルを装着した男だ。
「このまままっすぐ行けばポータルだ! 横道にそれるなよ!」
「ビートさんは」
「俺はここでモンスターの足止めをする。ここの道は狭いから一人でも他の奴らが来るまではしのげるはずだ」
「っ、わかりました。ご武運を!」
 恐らく組合の職員と思しき者とビートというらしい上級探索者はそうやり取りをすると、職員と新人の一団がその場を離れる。それを見送り、念のため走っている一団とその周辺をスキャンすると、思わぬ結果が出てダストは顔をしかめる。
「……面倒だな。ふむ。悪い子にはお仕置きをするとして」
 ぶつぶつと呟きつつ指を鳴らし、走って行った一団の方に簡単なバフと思考誘導をかけ、残った男、ビートにだけ通信を送る。
「近くを通った上級探索者だ。悪いがその隘路の出口の方に移動してくれ」
『うわっ、近距離強制通信か。ビビった。……えーと、移動するのか? ここの方が迎え撃つには丁度いいだろ』
「一人で迎え撃つならな。そっちに俺も行くから、とりあえず移動を頼む」
『わかった。すぐに移動する』
 通信を切り、ビートが移動しているのを見ながら、ダストも移動する。その途中で幻覚魔法も動作させる。
 合流地点に着くと、既に到着しているビートが目を丸くした。
「は?」
「言いたいことはわかるが少しだけ黙っといてくれ」
 地声でそう答えた後、手を空に滑らせて隘路の出口に仕掛けをする。モンスター郡の勢いで隘路が崩れてやや道が広がりつつあるが問題はない。魔法の設置が終わったところで、ダストはその場でくるりと半回転し、それらがある箇所に向けて笑顔を作り、撮影用の高い声を出す。
「君達を逃がしてくれた先輩の無残な姿を撮影してバズろうだなんて、探索者の風上にも置けない行いだねえ。そんな君達は~、バン!」
 指で銃の形を取り、ウィンクをしながら目の前の空間に向けて撃つ動作をする。途端、少し離れた場所から硬いものが落下する音が聞こえる。
「そして~、これはお仕置き、ということで」
 カメラはまだ生きていることを把握しつつ、それらを魔法で持ち上げ、移動させる。そして、モンスター郡の真上に放り投げた。落下したそれらはモンスター郡に衝突し、次々と破壊されていく。それを見て、再度周囲をスキャンする。
「よし、もうカメラはないな。全く、最近の探索初心者はすぐに動画サイトにあげようとして困るよなあ」
 地声でそう言いつつ、幻覚魔法を解く。その間にもモンスター郡は隘路を突き進み、こちらに近付いてきている。だが、モンスター郡が隘路の出口に着いた途端、何かに衝突したかのように動きが止まる。そこへ更に後続のモンスターが押し寄せ、その場でモンスターが潰れていく。
「一時間ほど待機して、まだ押し寄せるようなら次は通路ごと焼くか。さて、怪我とかないか? もしあるなら、回復薬渡すが」
 潰れていくモンスター郡を眺めながら声をかけるが返答がない。もしや見えない範囲に重傷を負っていたのだろうかと見ると、ビートは口をあんぐりと開けてこちらを見ていた。
「だ、大丈夫か?」
 再度声をかけると、ビートははっと我に返ったようで、大丈夫だと頷く。
「怪我はないから回復薬はいらねえよ」
「そうか。あーっと、自己紹介が遅れたな。探索者のダストだ」
「俺はビートだ。が、今の、星降メテオ、だよな?」
「知ってるのか?」
「ああ、割と見てる」
 視聴者だったようだ。これはまずかったかもしれないと思うが、自身の矜持より人命第一なのでやむをえないことだ。
「今のって、一体」
「幻覚魔法の応用。見た目と声がメテオだったのは、まあ、想像に任せる」
 そう言いつつ、モンスター郡の方を見る。するとビートが隣で座りこんだ。
「なんだ、やっぱりどこか怪我してたのか?」
「いや、疲れただけだ。走りっぱなし上に集中力散漫な新人に注意を払わないといけなかったからな」
 なるほどそれならば座り込むのもやむなしだろう。
「じゃあ存分に回復してくれ。さっきも言ったが、あと一時間はあそこで止めとく。あー、ドロップ品とかいるか?」
「いらねえよ。あの調子じゃ血まみれだろうし。それより、さっき投げてたの、撮影用ドローンか?」
「ああ。多分新人の誰かか、警報見て飛ばしてきた探索者の誰かのだろうな。俺としては前者の線が濃厚と思ってるが」
「なるほどな。そういや、やたら足が遅い上に周りを気にしてるやつが何人かいたか」
「組合に着いた途端新人が倒れたって話をあとで聞いたら、そいつらが犯人と思ってくれ」
「……もしかして、呪いでも送ったか?」
「ドローンに加わった衝撃を時間差でドーンと」
「下手したら死ぬぞ」
「死なない程度に加減はしてある。それに、こういう礼儀知らずは痛い目にあわないとまた繰り返して、他の探索者の迷惑になりかねない」
「はあ。だがそれで、メテオの皮をかぶって出るのは問題になるんじゃないのか?」
「事前に許可は取ってあるから問題ない。緊急時、カメラに映りそうな場所ではメテオの見た目借りるってな」
「……もしやスタッフさん?」
「さて、どうだろうな」
 話しながらも隘路を見る。モンスター群の勢いはあまり変わらないが、先に潰されたモンスターのせいで、手前が黒い壁になりつつある。モンスターの血は黒いものが多いのだ。
「ちょっと詰まってるな。……一回抜くか」
 壁を動かして一度押し寄せるモンスター郡を跳ね返す。その後、奥にもう一枚壁を作り、最初に作った壁を外す。途端、黒い液体とドロップ品と思しきものが流れ出てくる。
「今の、ウォールか?」
 ビートの質問に、少し考えてそうだと答える。その方が都合がいいだろう。
「ちょっと応用入れてるけどな」
「応用ってレベルに見えねえけどな。今、モンスター跳ね返しただろ。しかも、壁自体がたわんでたような」
「まあ、そういうこともあるだろ」
「ねえよ。ウォールって硬いし曲がらねえもんだろ」
 ビートの言葉通りである。確かに、ウォールは強固な壁を築くだけの魔法だ。それに比べ、今ダストが使ったものはかなり柔軟に形を変えられるし、耐久度も調整ができる。正直に言えば全くの別物である。しかし、まだ未発表魔法ではあるので、正直に言うわけにはいかない。
「そういうやつもあるってことにしてくれ」
「……わかった。そういうことにしとく」
 流石に向こうも上級探索者だけあって、こちらの都合を察してくれたようだ。
「でもあれ、便利そうだな。発表の予定は?」
 しかし気になるのは気になるらしい。ダストは少々考え、この程度ならいいかと判断して口を開く。
「する予定だが、燃費の問題がちょっとな」
「あー、そういう。……柔軟性持たせると魔力馬鹿食いするって話、聞いたことあるわ」
「せめてダンジョン内魔力を流用できる魔法式さえ開発できればなあ」
「それ俺もよく思うわ」
 やはりその辺は探索者共通の悩みなのだろう。ダンジョン内は未知のエネルギー、魔力が満ちていて、その魔力によってモンスターが生まれ、ダンジョン内独自の鉱物などが生成され、特殊な生態系が生みだされる。更にモンスターはそのダンジョン内の魔力をある程度取り込んで魔法を使うことが知られていて、その仕組みを解析できればダンジョン内の魔力を新たなエネルギー源として使えるのではと、各国の研究機関が調査をしているところだ。ダストも研究者の端くれとしてそういった研究を進めているが、己も含めどこも成果を上げられていない。
「ってことは、あんた、相当魔力あるんだな」
「まあ、人より比べれば」
 正確に言えばそうではないが、あまりその辺りを深掘りすると常識崩壊の類になるので適当に濁す。
「俺ももう少し魔力があればなあ」
「上級探索者だから、それなりにはあるだろ」
 上級探索者になる条件の一つがそれだったはずだ。
「割と下限の方なんだわ。だから、複数魔法撃つとホーツカ飲まねえとジリ貧になる」
 ホーツカ、鳳柄(ほうつか)製薬の液状魔力回復薬ホーツカポーションの略称だ。
「あー、そういうことか。効率化とか試した?」
「効率化?」
「組合がノウハウ出してるだろ」
「あれかあ。あれって効果あんのか?」
「魔力消費量の話なら、そのまま実践でも一割くらいは抑えられるぞ。そこから更に工夫して、三割減までやったやつもいたはず」
「一割減でもやる価値あるかあ。三割減ってどうしたんだ?」
「組合の奴らから話聞いただけだから、詳しくは知らんぞ」
 そう話している内に、段々モンスターが壁に激突する勢いが弱くなっていく。
「減ってきたか?」
 ビートの言葉に首を横に振る。
「まだわからん。一回上から見てくる」
「ドローンか?」
「いや、肉眼の方が確実だ」
 オーソドックスな身体強化魔法をかけて、ひょいと飛び上がる。適当な高さで足場を作って上から様子を見る。どうやらそれなりに小賢しい個体がいたらしく、いくつか迂回しようとしているのが見えた。
「そうはいかねえぞ、と!」
 迂回している個体は石柱で串刺しにする。そのまま石柱を立てていき、どうあっても隘路にしか行けないように通路を作ってから下に戻った。
「モンスターの勢い的に、あと三十分以内には落ち着くと思う」
「お、おう。なあ、今何やってたんだ?」
「魔法でちょっとゴリ押ししてきただけだ。迂回しようとしてたやつを潰して、あとちょっと小細工してここにしか突っ込めんようにした」
「……すげーこと言っていいか?」
「なんだ?」
「メテオちゃんの動画のやつ、もしかして、できるのか?」
「……いや、できないが?」
「お前ここからあっち見てからもう一回言えよ」
 そう言われ、なんだろうかとビートの指す方を見ると、隘路の向こうに石柱が何本も立ち、更にいくつかの石柱の先端にモンスターが串刺しになっていた。
「……遠近法とか考慮した方が良かったな」
「そこか?」
「このことは口外しないでいてくれると助かる。口止め料とかいるか?」
「命の恩人の秘密をバラすような薄情なやつに見えるか? っつうか、バラしたら闇討ちされそうだし」
「そんな面倒なことはやらん」
 位置情報システムが整備された現代では、ダンジョン内での殺人というのはすぐに露見してしまう。本気を出せば誤魔化すことは不可能ではないが、メテオの秘密のためにそこまでやるのは馬鹿らしいというものだ。
「とりあえず、黙っていてくれればいい」
「今日見たものは忘れるわ」
「よろしく」

 その後、問題なくモンスター郡の突発発生はおさまり、組合に報告、それが終わり次第解散帰宅となった。別れ際にはビートと連絡先を交換した。上級探索者は横の連携を取るために、出会ったら連絡先の交換を推奨されているのだ。
「星屑ダスト? あんた、やっぱりメテオちゃんの関係者」
「想像に任せる」
「……もしメテオちゃんの関係者なら、メテオちゃんにいつも面白い動画ありがとうって伝えといてくれ」
「ファンだったのか」
「フェイクと最初から思って見ると面白いからな。好きな回はサンドワーム一本釣りとゴブリン巣穴叩きです」
「そうか」
 サンドワーム一本釣りはともかく、ゴブリン巣穴叩きは編集が大変だった記憶があるので、ダストとしては少し嬉しくなった。
 連絡先を交換した後に帰路につき、自宅に着き次第日課のエゴサをすると、予想通りまた人の配信にメテオが映り込んでいると話題になっていた。

”メテオちゃんがなんか無名の配信に映ってたんだが”
”今回はメテオちゃんが正しいよ。逃げる時間稼いでる上級探索者を隠し撮りとか、趣味が悪いどころじゃないよ。”
”でも流石にメテオちゃん本人じゃないよな”
”上級探索者、つまり、スタッフさんか??”

 話題になっているのを見て、ダストはこれは言ってもいいだろうと、ツィックスに投稿をする。

”今日騒動になってる件ですが、スタッフさんが現場にいて、不穏な気配を感じたので姿を使ったよって連絡がありました。”

 その投稿をすると、ポコポコと拡散やコメント通知が入るが、一旦それは無視する。中にはお仕置きを受けたと思しき者から抗議のコメントもあるが、それについては他のユーザーが自業自得だとコメントを更に返しているのすら見えた。
 丁度この日は雑談配信だったので、配信の準備をする。パソコンをつけ、必要なソフトを起動し、カメラをオンにする。水も用意し、軽く声の調子を整えてマイクをオンにし、配信をつける。
「はーい、こんばんは~。星降メテオでーす」
 高めに整えた声を出すと、画面端のコメント欄で視聴者が挨拶をしてくれているのが見える。
「今日の雑談は最近の探索者トレンドとかにしようかと思ったけど、もっと触れてほしい話題があると思うので、そっちから話すね」
:また人の配信に映りこんでたやつか;
:あれスタッフさんってマジ?;
「そうそう。ツィックスでも言ったけど、今日のやつはスタッフさんが現場でやったんだって」
:声までメテオちゃんだったが??;
「変声機って便利だよね~ってスタッフさんは言ってたよ」
:かがくのちからってすげ~!;
:あんなきれいに変わるんだ……;
 視聴者が納得してくれている雰囲気なので、よしよしと思いつつ、ダストはメテオとして話を続ける。
「スタッフさんも他の上級探索者さんも無事だって連絡はもらったから、皆安心してね」
:無事でよかった!;
:モンスター郡発生で命落とす上級探索者、多いからな;
「ねー。皆無事でよかったよかった」
:ダンジョンから戻った新人組の中で、なんか突然体が痛いって暴れた奴がいたって話なんだけど、メテオちゃん何か知ってる?;
 その話が出て、おやとダストは思う。エゴサの中ではそういう話題は出ていなかったはずだが。
「えー、何それ。ちょっと待ってね」
 一言断りを入れてツィックスを検索してみると、確かにいくつかそういう投稿が見られる。とはいえ、メテオと関連付けている投稿はないので問題視しなくていいだろう。
「ふーん、そういうことあったんだ」
:なんだぁ、呪いでももらった奴がいたかぁ?;
:でも呪いの類って組合着いたら自動浄化じゃなかったか?;
:モンスター由来はな。探索者由来だと残ることがある。;
:マジ?;
:マジ;
:あと、組合に着いてから呪いが届いた場合は浄化のしようがない;
:組合に着いてから呪いが届くって何!?;
「あ、それスタッフさんも言ってた。なんか、ゲートの方に浄化システムがあるとかで、組合の中全体が安全地帯ってわけじゃないって」
 組合の施設案内にも書いてあったことを話しつつ、チャット全体の雰囲気とツィックスのフォロワーの投稿を見て、今日の件については問題なさそうだと判断する。あとはいつも通りの雑談をすれば問題はないだろう。
 安堵しつつ、ダストはメテオの雑談配信を続けた。

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