ボクは不貞腐れているのだ。
なぜかって?
ボクの持ち主であったケンタくんは、小さくなりすぎたボクを忘れてしまい、おかげでボクは、長い間引き出しの中で待っていたのだ。
けれど、ボクがどれだけ待っても、ケンタくんは二度と、ボクを使うことはなかった。
ボクが引き出しの中でケンタくんを待ち続けて、どれくらい経ったのかわからない。
ただ、ボクはずっと、ずーっと待っていたのだ。
こんなチビた鉛筆でも、見つけ出して、「ああそういえば、ここにあったな」とか言ってくれるといいが、まあそこは多くを望みはしないよ。とにかく、ボクを見つけ出して、使ってくれること。
せめて、もう削れないところまで使ってくれることを、ボクは望んでいたのだ。
望んで望んで、待ち続けていた。
そんな、ある日。
がらりと引き出しが開かれた。眩しいとありもしない目を細めたくなる。
「ないかなー」
おいおい、引っかき回すのはいいけど、もっと丁寧にしてくれよ。傷がついたらどうしてくれるだよ。
「うーん、これは……、長すぎるな。もうちょっと短いの……」
声からして、ケンタくんではない。ボクはケンタくんの声姿をずっと覚えてる。
「困ったな。宿題できない」
本当に困ってるらしい。声が泣きそうだ。
でもそんなに困ってるなら、新しく鉛筆を買えばいいじゃないか。不貞腐れたボクはそう思うのだ。
でも、さっきこの子は、短いものを探している風だった。
「算数の宿題、まだ終わってないのに」
さんすう? 確か、足したり引いたりするやつだったよな。その宿題で、短い鉛筆??
一体どんな宿題なんだろうか。
考えていた、その時だった。
「あ、これくらいなら丁度いいかな。もうちょっと使えそうだし」
ひょいと、ボクが拾い上げられた。
一体何かの間違いかと、夢でも見ているのかと目を丸く(目はないけど)していると、その少年は、ボクを何かに装着する。
気がつくと、ボクは線を引いていた。久しぶりだ。
見ると、円のようだ。
ああ、そうか。
これはコンパスだ。
「よし、これでいいな」
少年は嬉しそうにしている。ボクも嬉しい。
ああ、ボクはまた、誰かの役に立っている。
コンパスとしてだけど、またしばらく、もしくは使えなくなるまで、使ってもらえる!
少年は鉛筆は肥後守で削るのが好きらしく、ボクも肥後守で削って使ってくれる。
けれど、もうすぐボクは捨てられるだろう。もう削る余地もないのだ。
最後はコンパスとしてではあったけど、それでも、最後まで使えてもらって、ボクはとても幸せだった。
そういえば、あのコンパス、ケンタくんが使っていたものと同じだ。
彼は、あの少年は、ケンタくんの子孫なのかな。
「あーあ、こいつには長いこと、世話になったなあ」
コンパスと、そこにつけた鉛筆をじっと見る。
「お、じいさんのコンパスか」
隣にいるのは、友人の甲田だ。
「正確にはひいじいさんの、だよ。俺と同じ、健太って名前なんだ」
「へえ、因果だなあ」
「でも、ひいじいさんは俺と違って、数学は嫌いだったみたいだけど」
「お前は数学っていうより、図形が好きなだけだろ。定規とコンパスを使って、変な模様ばっかり」
「おま、作図なめんなって何回言ったら」
「はいはい、わかりましたよ。それで、その鉛筆、もう使えないだろ」
「うん。今まで世話になったから、ちょっと名残惜しいんだけどさ」
「捨てるのか」
「どっかで供養とかできないかな」
「……神社とか?」
「かな」