ヴェリナ・リケッツがそこに至るまで

インセイン「ヴィラ・アネッロ」の感想ふせったーまとめと、セッション中のモノローグと、セッションの前日譚。

2.前日譚「ヴェリナ・リケッツがそこに至るまで」

 ヴェリナは子爵位を持つリケッツ家に生まれた。ただ子爵と言っても、領地は森とささやかな農地だけで、領民もいない、一種の地主のようなものだった。ささやかな農地で日々の食べ物を作り、リケッツ家が所持している森の獣を狩り、木を伐り、それらの加工品によって金品を得る、貴族というにはあまりに質素な暮らしをしていた。ただ、庶民から見れば裕福な方ではあり、農地や森の管理に人を雇うことはでき、子どもの成長の節目に新しい衣服を贈ることはできる程度の財力はあった。
 しかしそうはいっても、貴族の中では貧しい部類にあったため、リケッツ家は貴族でありながらも積極的に仕事をしていた。物心つく頃には農作業の手伝いをすることになり、長じれば森での狩りや伐採に参加、才能があれば加工品の制作なども行うことになる。そういったわけで、ヴェリナは女性ではあるがそういったことに詳しくなってしまった。また本人も、淑女教育よりもそちらの方が性に合うからと、稼業の手伝いばかりを行い、度々両親にもっと勉強もしろと怒られていた。
 そんなヴェリナも成長し、十六歳と結婚適齢期になったので、縁談が舞い込んだ。相手は少し遠い地の男爵家の次男で、現在その土地の商会に勤めているそうだ。
「どうしてそんな縁遠い方が、私に?」
 話を聞いた時、まずヴェリナはそう思い、両親に訊ねてしまった。
「うちの木材や木工品を紹介してくれた方がいるとかで、縁を作りたいと、そういう話になったらしい」
「……えーと、普通に商談だけでよいのでは?」
「向こうも嫁を探していたらしい。それでついでにと」
「ついでに結婚」
 ヴェリナは複雑な気持ちになるが、一方でそんなものだという諦めもある。それに、一応子爵位だからと下手な貴族と結婚する可能性だってあった。ここは変な貴族に嫁がなくなっただけ良しとすべきではと思い直す。しかしそうなると、不安になるのは相手のことだ。確か商会に勤めていると言った。それならば金銭関連に煩そうだが、生憎ヴェリナはその辺りが苦手だ。
「私、計算とかが得意ではないのですが、よいのでしょうか」
「それは本人に聞いてみなさい。再来週こちらに来るそうだから」
「はい」

 その後当人と顔を合わせ、お互い悪い印象は持たなかったので結婚の話はあっという間にまとまってしまった。相手のフィリップ・ジャーヴィスは怜悧な印象を持たれそうな風貌であったが、話してみれば素朴な印象の男で、少し反応が遅れがちなヴェリナの話もよく聞いてくれた。ただ、血は苦手なようで、狩猟などの話には腰が引けているようだった。
「君は勇敢なんだね」
「慣れているだけですよ。でも、フィリップさんに嫁いだら腕をふるうことをなくなると思います」
「もしかしたら、地元の猟師会が手伝ってくれって言うかも」
「……ないと思います」
「今なんで間があったの?」
「……私は女だから呼ばれないし、寧ろ呼ばれるとしたらフィリップさんの方ではないかと、と思っただけです」
「ああなるほど。その時は私から君を紹介するよ」
「まあ」
 そんな会話ができる程度には、ヴェリナはフィリップと親しくなれていた。

 しかし、ある時そのフィリップが行方不明になったという。ヴェリナは志願してフィリップの捜索隊に加わり、彼の足取りを追った。だがいくら探しても彼は見つからず、遂に生存は絶望的とされ、その捜索も打ち切られることとなった。
 フィリップの失踪によりヴェリナの縁談は破談となり、ジャーヴィス家から捜索協力金を渡されて、生家に帰ることとなった。
 ヴェリナは自身が思っている以上に落ち込んでいることに、それだけ彼を好ましく思っていたのかと気付いてしまった。
「こんなことなら、早く結婚してしまえば良かったかしら」
 そう思いつつ帰る道すがら、急な雷雨に見舞われた。これはたまらないと、ヴェリナは馬を走らせた。
 雨宿りできそうな村か民家でもないだろうか、或いは森でもいいのだがと辺りを見るが、丁度良さそうな場所はない。こうなったら雨に振られるまま進むかと思ったところで、かなりの轟音が周囲に響き渡る。
「きゃっ」
 その音にヴェリナ自身が驚き、つい馬の腹を蹴ってしまったこと、また馬自身もその音と腹部の刺激に驚いたことが重なり、馬がいつにない速度で走り出す。ヴェリナは急いで手綱を引こうとするが、あまりの速度にバランスを崩しそうになり、半ば馬の首にしがみつく形になってしまった。そこからはもう馬が進むままだ。
 どれほど経ったのか、馬がようやく速度を緩めたので、そこでヴェリナは手綱を引き、馬を止めた。周囲を見ると、深い森の中だ。樹木の様子から、リケッツ家の森ではないことは確かだ。
「……仕方ないわね」
 ヴェリナは馬を歩かせ、人家などの雨風が凌げる場所を探すことにした。
 それからしばらくして、森を抜けて開けた場所に出た。馬車が通れる程度に整えられた道もあり、そこを辿ればどこかしらの村に着きそうだ。そのことに安堵し、ヴェリナは道に沿って馬を歩かせる。
 更に少し馬を歩かせると、岬が見える。そこに、展望台のついた少し古びた様子の屋敷があった。灯りがついており、そこに誰かしらが住んでいる気配がする。ヴェリナはほっと安堵の息をつき、そこに向かう。
 あそこならば、厩などもあるだろうから、馬も充分休ませることができるだろう。それにどんなに気難しい人でも、厩を貸すくらいは許してくれるはずだろう。
 時刻としては夜半だろうか、ヴェリナの体感としてはだいぶ遅い時間に屋敷につき、ドアをノックする。ほどなくして、ドアが開いた。やや煌びやかな服装をまとった、華やかな男性だ。
「やあこんばんは、お嬢さん。どうしたんだい?」
「あの、すみません、少々雨で立ち往生してしまいまして。雨が上がるまでの間でよいので、軒先を貸していただけないでしょうか。それと、馬もいるので、厩も貸していただけると」
 彼はヴェリナに上から下まで目を向けると、首を横に振る。
「ずぶ濡れじゃないか。そのままでは風邪をひいてしまう。今晩はこの家に泊まっていきなさい」
「でも、ご迷惑に」
「こんな雨が降っているのに、お嬢さん一人を軒先にと言うほど、私は冷血ではないよ。さ、入って。ああ、その前に厩か。少し待ちなさい」
 男性はそう言って、一度家に入ると、雨具を着て出てきた。
「こっちに厩がある。馬はその一頭だけかな」
 頷くと、男性は馬を連れて行こうとしたのだろう。馬に近付く。しかし、馬はなぜか怯える様子を見せた。それに気付き、逃げられては困るとヴェリナが馬に駆け寄る。
「案内をしていただければ、自分で繋ぎますので」
「……そうかい? では、ついてきてくれ」
 男性についていき、厩に馬を繋ぎ、男性に断って飼葉を与えた。馬は飼葉を食べると落ち着いたが、男性が近付こうとするとやはり怯える様子を見せた。普段豪胆なほどの馬だと知っているヴェリナは、何かまずいところに来たかもしれないと思い始めた。しかし、そうは言っても彼はヴェリナを招く気だし、ヴェリナ自身もできればしっかりと屋根のある場所で眠りたかった。
 ヴェリナは男性にあとで行くからと言って、先に屋敷に戻ってもらった。そうして、ヴェリナは馬を繋いでいたロープをほどき、一旦外した鞍などをつけてしまう。
「窮屈な思いをさせてごめんね。その上で、一つお願いなんだけど。何か異変を感じたら、もしくは、明日の朝私がお前を迎えに来なかったら、一人で帰りなさい。お前だけが帰れば、きっとお父様は私に何かあったと察してくれるでしょうから」
 しっかりと言い聞かせれば、馬はこくりと頷いた。
「ありがとう。それじゃあね」
 ヴェリナは馬から離れ、先程の玄関に戻る。玄関の前で、あの男性が待っていた。
「さ、中へどうぞ。ああ、私はグレイ。一応ウィンターベリー子爵ということになっているが、礼儀とかは気にならない方だから安心してくれ。お嬢さん、あなたの名前は?」
「ヴェリナ・リケッツです。一晩お世話になります」
 そうして、ヴェリナはその日、ヴィラ・アネッロと呼ばれるその屋敷に入ってしまった。

※前日譚あとがき
・子爵は17世紀には不死になる
・屋敷自体は400年はある
・PC達は偽物の記憶を植え付けられている
・PC2が本当に子爵と古い知り合いであるとは書いてなかった(→つまり初期HOはあくまで子爵からつけられた設定では?)
・被害者の一人と書かれていた
・二百年前に描かれた肖像画がある(→少なくともPC2は二百年前にはヴィラ・アネッロの仲間入りしていた)
以上のことから、大体二百年前にヴィラ・アネッロに迷い込んで幽霊の一人になった一般お嬢さんでもええやろと思って書きました。
よく見たら「若い頃の肖像画」とあるけど、その辺は子爵が作ったフレーバーアイテムだろと思ってるので、そこは目をつむっちゃうぜ!
なお貴族部分も超適当なので、その辺もさらーっと流してくれ。あと多分馬は無事。

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