1.素質のある友人
「俺さあ、人魚になる素質があるんだって」
久しぶりに出会った中高の同級生と飲んでいた時に、不意にそんなことを言われた。
「はあ?」
「これがマジなんだって。いやさあ、なんか変なことに巻き込まれちゃってさ。そこでわかったんだけど」
「……宗教にはまったか?」
「まあある意味宗教儀式的なものに巻き込まれたって感じかも。一応お祭りって言ってたし」
そう言って、その祭りについて話してくれた。その内容はなかなかに身の毛もよだつもので、そんなものに彼が巻き込まれ、しかし逃げ延びたということはにわかに信じがたかった。
「お前のことだから、大体腕力で解決しそうだが」
「数が多かったし、最初は逃げ道もなかったから。あ、でも燃やしてやればよかったなー」
「……そうか」
燃やしたらそれはそれで何らかの罪に問われそうだがと思う、が、それを理由に留まる男ではないなとも思う。
「まあそういうことがあってさ、俺は人魚の素質があるってわかったわけなんだけど」
「でも、その人魚の肉とやらがなければなれないんだろ」
「まだ一かけらだけ残ってるぞ」
「は!?」
「いやー、そっちはちょっとした賭け中なんだけど、俺こういうところの悪運は強いと信じてるから、きっと食べることにはならないんじゃないかな。まあ食べることになったらなったで、そしたらヒモ生活になるから、それはそれでいいっちゃいいんだけど」
「良くないだろ。知り合いが人魚になるとか冗談じゃないぞ」
「だから大丈夫だって。きっと先生のことだ、大作にしてくれるって。あ、今話した内容に似た小説とか出たら買ってくれよな」
「はあ? なんだそれ」
「それは秘密~」
「うざっ」
「あはははは」
酒が入って陽気に笑う姿を見ていると、今の一連の話が冗談なのではと思うのだが、彼がこういった空想のような冗談を話すことはまずない。ということは、きっと真実なのだろうが、それにしたってこの様子。
少し考えるが、追及してもこれ以上のことは教えてくれない気もする。この男は基本流されやすいが、自身で決めたことは貫く一面もある。今秘密と言ったのならば、これ以上何を聞いても無駄だろう。
「せめて人魚になる時は事前に連絡してくれ。送別会くらいはしてやる」
「サンキュー、シカゴ」
「そのあだ名で呼ぶな」
「痛いっ!」
ぺしんと頭を叩くと、ナゴヤというあだ名がある同級生はわざとらしく痛がった。