特別なドーナツ

CoC「VOID」の自陣の小話2本。まだシナリオクリアしてないけど、一旦小話だけ先にあげちゃうのだ。

レオは困っている
 復元された映像を見た後、レオは三人に頼んで、1体にさせてもらった。キョウ達に見たものを軽く説明はしたが、レオ自身、あの映像について思うところが多すぎて、まともに会話を続けられなくなったのだ。
 かつて自身が目覚めた部屋で、椅子の背もたれに顎をのせるという行儀の悪い座り方でぼんやりと虚空を見上げ、情報を整理し、推測を立てていく。
 自身の名前の由来、子ども達、彼らにつけた数字、確かに人間だったあの子ども達にどこか似ていた謎のアンドロイド達、記録の中では徐々に消えていった子ども達、謎のアンドロイド達の番号と、子ども達につけた数字の共通性。
 情報をまとめようとする度、嫌な推測をして、そんなわけがと首を横に振って、また最初から考え直す。
 そんなことを幾度か繰り返したところで、レオはため息をついた。そうして、なるほどこういう時にため息という動作をすると、少し気が紛れるのだなと学習した。気は紛れても、根本的なところは解決していないのだが。
 レオが答えを出したいと思っているのは、次にあの子ども達に似たアンドロイドに出会った時、どうすべきか、ということだ。恐らく次に見かけるとしたら、くおか、みみか、ココロか、そのいずれかだろう。いや、またさとみやひさとに似たアンドロイドが出てもおかしくはないか。いずれにせよ、その時にどうするべきか、いや、どうしたいかということを考えているのだ。
 恐らく、命令があれば戦うことはできる。個としての思惑はどうあれ、戦えという命令ならばそれに従うし、きっとなんてことない表情のまま、アンドロイドを破壊できるだろう。人間に従うのがアンドロイドなのだから。
 しかし、一方でそれを破壊していいのだろうかと、そう思う部分もある。いや、スタックが残ればいいのだから、機体を破壊したって何の問題もない。だが、あの記録を見た後では、対峙した時にどうにも人間であるあの子ども達がまず浮かびそうだと予測できる。そうなった時でも狙いは鈍らないと、果たして断言できるだろうか。
 いや、鈍るなんてことはないはずだ。だって、旧型とはいえレオはアンドロイドなのだから。
 そう思いつつも、破壊してスタックだけを見ればいいという帰結に、どうにも拒否感を覚える。嫌だと思ってしまう。
 なぜなら、レオは彼らと話したいと考えてしまっているからだ。そうして、そう考える理由はただ一つ。
 自身は、いや、X000という機体は一体何なのか。
 この考えはずっとレオの中にあったものだ。発見者のキョウ曰く、旧型とは思えない性能と言われ、しかもハッキングに長けている。けれど自身に過去の記録はなく、なぜ作られたか、どうして壊れかけの状態で放棄されていたかが全くわからない。
 今回の一連の事件の中で、自身と同じくハッキングが得意な機体の影を感じることがある。その機体が、もしあの謎のアンドロイド達ならば、レオの失われた過去を知っているのではないか、X000が何なのかを知っているのではないかと、そう考えるのだ。
 しかも、偶然なのか何なのか、ひさとに似たアンドロイドは、身を投げる前にレオのことを見ていた気がする。もしアレが、レオのことを知っていて、それでこちらを見ていたということなら、もしかしたら、話しかければ何らかの情報を得られたかもしれない。
「……どうしたい?」
 ぽつりと、声を出して自らに問いかける。
 次に記録の中の子ども達に似たアンドロイドが現れたら、話を聞いてみたい。でも、なんと声をかけたものか。いや、声をかける資格はあるのか? ひさとやさとみに似たアンドロイドを容赦なく壊しておいて、その上で過去を知りたいから、記録に現れた子ども達に似たアンドロイドに話を聞きたいなど、そんなことを言う資格があるのか? それに、もしかしたらひさとに似たアンドロイドのあの挙動は本当にただの偶然で、向こうはこちらのことを全然知らない可能性だってある。いや、ない方が自然だろう。彼らが、ただ見た目だけを模したアンドロイドなら、知らないに決まっている。
「でも」
 それでも、せめて『レオ』という名称を知っているか、それくらいは聞いておきたい。もし知っているなら、話を聞かせてほしい。
 そう結論付けて、ふとあることが浮かぶ。
「……ふふ、こんなことで悩むなんて、人間みたい」
 いつだって、自身が従う人間、それはキョウをはじめとするスパローの仲間達だったり、久慈だったり、警察の上役だったりと状況で様々だが、ともあれ彼らのためにどうすればいいかを基準で判断してきた。それが、自身を知りたいという、人間のような欲求で悩んでいる。
 そう、悩んでいるのだ。アンドロイドが一丁前に!
 その状況になんだか笑いたくなるが、今それをすれば、絶対にニトやリトが心配をするし、キョウもこちらに何らかの配慮をしようかと声をかけてきそうだ。そんなことはさせたくなかった。
 再び深くため息をつき、気持ちを落ち着かせる。
 そうして、人間であればこういう時どうするのだったかと思い出す。思い出した結果に、レオは眉をひそめる。
「相談」
 その単語を口にした時、思いついたのは一人だけだ。しかし、彼にそのまま全てを話すわけにはいかないだろう。下手をすればスパローを危機に陥らせてしまう。
「これ以上、久慈さんに嘘はつきたくないんだけどなあ」
 とはいえ、どうせ全ては話せないとしても、実情に近しい何らかの理由が必要だ。何しろ、彼と組んでからの年月の中で、初めて人間くさい相談をするのだし。
 あれこれと、彼に相談するための段取りを考える。まあ面倒見のいい彼のことだ、よほどのことがなければ、こちらの話を聞いてはくれるだろうが。
「……あ、ついでに気になることでも聞こっかな」
 それはキョウのことだ。彼について、久慈はある程度知っているようだし、キョウもあの様子だった。果たして彼は元相棒だったのか、それとも同僚だったのか。それくらいは、なんとなく聞いておきたい気がする。現パートナーとして。
 相談ついでに聞いておきたいこともまとめておくかと、レオは再び、虚空を見る。
 それから少しして、レオは椅子から立ち上がり、部屋を出た。

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