白猪くんの失踪

インセイン「名探偵の殺し方」の感想ふせったーまとめと、例によって書いた小話。

白猪健夫の告白

……あ〜、先輩には、やっぱ、言っときます。
俺、本当は白猪健夫って名前じゃないんす。これはいわゆるビジネスネームってやつっすね。所長にお願いして、これで通してたんです。……三谷さんも、もしかしたら所長から聞いてるかも? でも俺からは話してないんで、そこはわかんないっすね。

俺の本名は、有瀬暁斗。さっき名前が出た、有瀬昇の弟なんです。
行きつけって言ってたから、不審に思ったんすよね?
多分先輩は感づいてるだろうけど、俺、兄貴がどうして死んだのか、知りたかったんです。
この旅館で起きた事件で何かあったんだろうなってことは薄々わかってたんで、その何かを調べるために、この旅館に来てたんです。
まあ、俺頭良くないし、兄貴みたいに物事を見抜く力もないんで、毎回無駄足でしたけど。

兄貴のこと、大好きだったんです。
だから、兄貴が自殺しちゃって、ほんと、なんでってずっと思ってて。
兄貴、「名探偵は許されない」って言ってたんす。
俺はその言葉の意味が知りたいし、兄貴がなんでああなっちゃったか知りたい。
今回、その糸口がようやく見えた気がしてる。

先輩のこと巻き込んじゃった形になったし、人は死ぬしでほんと最悪なんすけど、でも、ここまできたからには、俺は知りたい。
名探偵って何なのか、なんで兄貴は「許されない」って思ったのか。
そして、どうして兄貴は自殺したのか。
それが、今の俺の思いっすね。

「……やっぱりな、だからさっきは……いや、悪かった。だが白猪、そのまま、その目的を追うのなら、……目的を追うとしても、誰も傷つけるな」
「あー、それは、先輩が心配しなくても、大丈夫っすよ」
 そう、そんなことはしない。誰かを傷つけるなんて、そんなことは、有瀬昇の弟としては絶対にできないことだ。
「俺、そういうの苦手だし、そういうことやってもうまくいかないのは、見てきたっすから」
 彼の弟として、それなりに事件を見てきたのだから。
「……誰も、というのは、お前も、だぞ。白猪」
 その言葉に、ぱちりと目を瞬かせる。
 そして、そうか、とも思う。
「……。そうっすね。善処します」
「……戻ろう」
 そう言って、羽生田がこちらに背を向け、歩き始める。その後ろを追いながら、ぼんやりと考える。
 でも、きっと目の前で知り合いが傷つきそうなら、自分は行動してしまう。自分にできることがあるならと、手を出してしまう。兄の苦悩に寄り添えず彼を死なせてしまった後悔がきっとそうさせる。
 行動してしまった後に命があったら、先輩に怒られるしかないな。
 そう思い、羽生田の後ろでふっと笑った。

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