鏨耕助のレポート

インセイン「ラスト・ローズ」の感想ふせったーまとめと、キャラのボツ設定と、小話たち。

二月某日
 某年二月某日。鏨耕助は依頼を終え、事務所に帰ってきたところで、事務所の置き配用の箱に妙なものが入っていることに気付いた。
 サイズとしてはそんなに大きくない袋、しかし宛名も送り主の名も記載がない。袋は店舗でラッピングを頼むと出てくるようなもので、持ち上げた限り、中に箱が入っているようだ。ということは、贈り物の類だろう。しかし、耕助としては最近関わった事件も含め、こんな贈り物をもらう謂れはないように思う。一瞬、悪霊が憑いているとかそういうものだろうかとも思ったが、見る限りそんな気配もない。
「……なんだ?」
 とりあえず開けるかと、袋にかけられたリボンを取り、開けてみる。予想通り小箱が入っていて、箱の表面に印字された文字は耕助には馴染みがないものだ。店名か何かだろうか。
『あら、チョコレート』
 不意に声が聞こえ、顔をあげると、最近よく事務所に出入りする浮遊霊がいた。
「これは、チョコレートのブランドか何かということか」
『そうそう。これおいしいのよね~。コースケ君、そんなもの貰うなんて隅に置けないわね!』
「残念ながら心当たりがない。今のところ不審物扱いだ」
『えー、中に手紙とかないの?』
「袋の中はこの箱だけだ」
 と話しつつ、一応箱をひっくり返したりしてみる。箱の裏面にはこの箱の中身がチョコレートだと示す製品表示しかないし、袋の内面に何か貼り付けてあったりもない。
「ふむ。不審物だな」
『本当に心当たりとかないの?』
「全くない。君は何か見ていたりしないか?」
『見てたら真っ先に報告してるわよ』
「そうだな」
 この浮遊霊はだいぶお喋りだったなと思いつつ、袋と箱を持って事務所に入る。すると、別の幽霊がソファでくつろいでいるのが見えた。ボロボロの着物と袴を身に着けた男で、本人曰く大正時代の幽霊らしい。彼は耕助が帰ってきたのを見ると、やあと手をあげる。内心、今日は幽霊の客が多い日だとため息をつく。
『おかえりなさい。君に客人が来ていましたよ』
「客?」
『君の知人の吸血鬼ですよ。数時間前だったか、君の不在を訊ねる声が聞こえてきたんですが、まあ私が出ても驚かせるでしょうと居留守をきめこんでいたら、何かごそごそと表で何かやった後に帰って行きましたね』
 それを聞いて、なるほどと思う。となれば、あとは事実確認だ。
「そうか。教えてくれてありがとう。ひとまず本人に聞いてみよう」
 チョコレートをキッチンに置き、電話をかけてみる。
 ひとまず、どういった思惑でチョコレートを置いたのか確認をしなくては。

 電話をする耕助を見て、幽霊達はヒソヒソと囁く。
『あらあら、俗にいう友チョコってやつねえ。まあはしゃいじゃって』
『彼は生きてる友人が少ないからなあ。ふむ、次にあの客人が来たら私達は席を外しましょう』
『覗き見しましょうよ』
『そういうのは無粋っていうもんですよ。どうせ彼のことだ、聞けば答えてくれるんだから、その時に根堀葉掘り聞いた方があなたは楽しいでしょう』
『否定はできないわね』
『でしょう』
 悪だくみを話しながら、幽霊達は耕助の様子を見る。礼をしたいからと遠回しに誘っている姿は、年頃よりも少しばかり幼くも思える。
『もったいぶった言い方よねえ』
『それが彼ですから』
『そうなんだけどねえ。もうちょっとズバッと言ってもいいと思うけど』
『今後あちらとの付き合いが長くなれば、改善されるでしょうから。見守りましょう』
 だが果たして、自分達が成仏するのが先か、彼があの吸血鬼と気のおけない仲になるのが先か。
 耕助の様子を見て、そんなことをうっすら思う幽霊達でもあった。

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